早くほしくて堪らなくて、僕は彼女を腕に閉じ込めてベッドに横たえた。乱暴にならないように気をつけたけれど、ベッドは軋んで嫌な音を立てた。でも彼女は僕が謝る前ににこりと笑った。
「慌てて、焦れて、かわいいわ」
頬に触れる滑らかな指先に誘われて、僕は彼女に口付けする。誓いのキス以上に深く淫らな。法や精神だけでなく肉体での繋がりも宣誓するかのような。
彼女は珍しくすべて僕に任せきっていた。身体中を吸い上げる荒っぽいキスも、全部受け入れて。
つるりとした口蓋を舐めると、かわいらしい吐息が唇の隙間から漏れてきた。こちらの行為を快感として受け取ってくれていると思うと嬉しくなってくる。僕はたまらず下敷きにした彼女のスカートを捲り上げて腰を押し付け、混ぜ合わせるようにお互いの勃起を擦り合わせた。
僕の怒張に絡みついた精液のぬめりのお陰でちょうどいい刺激で肌が触れ合う。彼女の逸物の筋骨隆々と例えたくなるほどの逞しい筋に僕の軟弱な亀頭は押し負けて、情けなくとろとろと勢いなく漏れ出てくる白い敗北。
「ぉ゛ー……」
みっともない声に相応しいみっともない顔をしていることだろう。組み敷いている側がこのありさま。快感に打ちのめされつつある腰はがくがく震えて、お尻は物欲しさに誰もいない虚空に突き出される。
肉体的な刺激もとてもいいけれど、僕の精液が彼女になすりつけられて、彼女を穢しているという精神的な昂揚もまたいいものだった。
僕なんかの無駄にした老廃物で清廉な彼女を犯している。僕は彼女にひどいことをされるのが好きなはずなのに、今ひどいことをしているのは僕のほうだ。ひどく酔った時のように頭がぐるぐるしていた。わけがわからなくなっていた。
「汚しちゃって、る……ごめ、なさ……こんなの、おかしいのに、きもちいいんだ」
僕の頬に彼女のひんやりした手が触れる。お陰で少し落ち着いた。ほんの少しだ。
「何をしてもいいの、今日は」そう言ってから彼女は小さく首を横に振る。「いいえ、これからずっと」これまでだって、何をしてもよかったわ。
そう言われてしまったら、もう歯止めが効かなくなってしまう。
僕は彼女に一つだけ真剣なキスを落とした。教会でしたよりもずっとずっと心をこめて。そして邪魔な服を脱ぎ捨てて、彼女の上に馬乗りになる。挿入するためではなく、されるために。
何があろうとどうなろうと、僕は彼女を受け入れるためにある。その証拠に、僕の穴は何の準備もなくとも彼女を柔軟に飲み込む。
「ん゛、ほぉ゛ッ……!」
少しずつ浅く腰を落とすつもりだったのに、粘膜の末端に彼女が触れた瞬間に、待ちかねた悦楽が暴発して腰が一気に深く落ちていた。自分自身の重みで素早く腰が沈むのと同じく、素早く擦り上げられ、貫かれる腑。彼女の腰骨を僕自身の重さで粉砕する寸前でなんとか体重を逃すが、それでも中に詰め込まれた彼女の肉茎は僕の肉道の奥をずしりと圧迫していた。
「あ゛……ッ、も゛、ぅ」
快感を逃がそうと開け放った口から、吐息だけでなく汚い喘ぎと舌が溢れる。肉粘膜をがばりと拡げられ、直腸の端に突きつけられる鋒。勢いなく垂れる一筋の精。もちろん僕のものから。
「はー……ッ、お゛ぅうッ」
これだけで意識が遠のく。いつも彼女にしてもらうばかりで、自分からこうすることなんてなかった。せめて今日、今だけはがんばりたかった。
結婚初夜にこんなに熟れて使い潰された場所をあてがうなんて、彼女に申し訳ない。だからその分気持ちよくなってもらいたかった。
心の中で甘えた惰肉に喝を入れ、腰を振りたくる。趣向も何もない、ただがむしゃらで力任せの性交だった。
「あなたのペースでいいのよ」
僕はめいっぱい首を横に振る。彼女はこの調子で心地よさそうだし、これ以上ゆっくりなんて僕がもたない。
何度も交わりを経験したはずなのに、中に感じる彼女の肉茎は凶器のようだ。雄々しく隆起した筋が快楽の源を抉る。その度に軽い絶頂が全身を打って、僕の情けない陰茎が震える。ちょろちょろと放たれた精液が清く白い肌を穢す。
「リングをしているのに、随分たくさん出るのね」
彼女は褒めているつもりなのだろうが、僕にしてみたらそういう気持ちにはなれない。恥ずかしさに神経の隅々まで震えて感じすぎてしまう。腰が甘ったるく震えて、お尻の中がきゅんと疼く。締め付けにも屈しない彼女の雄の力強さに、殴りつけられるような心地よさを覚える。根元にはめた環のせいか、彼女の肉柱はいつもより大きさと硬さが増しているように思える。筋や血管もいつも以上に浮き出ている気がする。
「すごいわ、あなたの中、うねって、たっぷり出してほしいって、そう言っているみたいよ」
その通りだった。熱くなった粘膜にもっと熱い性液を注入して、撹拌して、触れうるすべての場所に擦り込んでほしかった。そうした雑音のような欲望が思考を奪って、何も考えられないまま、僕は浅く速く腰を動かす。本当ならもっと深く腰を落として長いストロークを味わいたかったけれど、もし何か間違いが起きて、彼女の腰を潰してしまったらと思うと、踏み出すことはできなかった。
「もっと深くお尻を落としてみて。大丈夫、それくらいで潰れたりしないから」
快感で壊れる寸前の腰が案外強い力で掴まれて、
「おぉおおおぉおッ!? な、ぁッ、なに、これっ、はっ、入って……入っ、た……ぁ」
「あなたなら気持ちよく感じてくれると思ったのだけれど」
そう言われて初めて、彼女が僕の腰を掴み、遠慮の残っていた重みをすべて下へ落としたのだとわかった。僕自身の体重で、僕自身の内側へ、彼女を根元まで沈めてしまったのだ。
いつも彼女に押し開かれている時とは違った。自分から跨っているはずなのに、逃げ道のない場所へ自分で自分を突き落としたようだった。深い。深すぎる。さっきまで先端だけを恐る恐る含んでいた肉道が、今は彼女の硬さを余すところなく飲み下して、もう吐き出す事もできない。
彼女の下腹に僕の尻がぴたりと触れている。これ以上は入らないはずなのに、腰の奥ではまだ侵入が続いているような錯覚があった。肉の根が体内で脈打つたび、その拍動が直腸の奥の行き止まりにこつこつと当たり、そこから腹、胸、乳首へと、細い銅管の中を蒸気が走るように熱が巡る。
「あ、あ゛……ッ、そこ、だめ……ちが、う、だめじゃ、なくて……」
何を言っているのか自分でもわからなかった。だめと言いたいのではない。やめてほしいわけでもない。ただ、そこをそういう風に使われると、自分が男であったとか、夫であるとか、彼女を抱いている側であるとか、そういう心許ない区別が全部剥がれてしまう。剥がれて、丸められて、ボイラーの火口に投げ込まれてしまう。
「大丈夫。潰れていないわ。ちゃんと受け止めている」
彼女は僕を安心させるように言ったが、ちっとも安心できなかった。受け止めている、という言葉がいけなかった。僕の身体が彼女を受け止めるためのものとしてきちんと働いているのだと思うと、褒められた犬のように胸が熱くなり、尻の中が勝手にきゅうと締まった。
「ん……今の、すごくいい」
彼女の声が少しだけ乱れる。それだけで、僕の中の浅ましい部分は有頂天になった。彼女が気持ちよくなっている。僕の中で。僕の、彼女のために躾けられ、拓かれ、使い道を定められた場所で。
そう思った瞬間、僕は堪えられなくなって腰を揺らした。深く落としたまま、ほんの少し持ち上げ、また沈む。大きく動かす勇気はなかった。彼女の華奢な腰を本当に砕いてしまいそうで怖かったし、何より僕自身がそれに耐えられそうになかった。わずかな上下で十分だった。粘膜に刻まれた襞が彼女の筋を一つ一つ数え、輪郭を覚え、奥まで入っているという事実を何度も何度も僕に教えた。
「は、ぁ……っ、あ゛、ん、ぉ……ッ」
浅い動きのたびに、根元の銀の環が僕の下腹に冷たく触れた。彼女とお揃いの淫らな輪。結婚指輪よりもずっと恥ずかしく、ずっと肉に近い誓い。僕の情けない陰茎はその締めつけの中でびくびく震え、出る事を許されないものを先端に滲ませていた。白く濁った雫が、僕の腹の傷跡を伝って彼女の肌へ落ちる。
また汚している。
妻を、僕の老廃物で。
それなのに、彼女は嫌がるどころかうっとりと目を細めた。
「もっと。あなたの好きなようにして」
好きなように、と言われても、僕の好きなようにした結果がこれだった。彼女の上で、彼女に貫かれ、彼女の硬い性器に内側から支えられながら、雄でも雌でも犬でも豚でも夫でもない、もっと曖昧で役に立つ何かになっている。
腰を落とす。奥が詰まる。胸が震える。ピアスが揺れる。乳首に溜まっていた熱が、尻の奥で彼女とぶつかる快感に引き寄せられて、一本の鎖になったように全身を縛った。
「お゛、おぉ……ッ、だめ、いく、いって、しま……」
「いいわ」
短い許しだった。
その一言で、身体は完全に言うことを聞かなくなった。僕は彼女の腰の上で大きく仰け反り、胸を突き出し、尻の奥で彼女を強く締めつけた。肉道が彼女を離すまいと貪り、腹の内側が波打ち、根元を縛られた陰茎からは行き場を失った精が情けなくじわじわ溢れた。射精というより、壊れた管から中身が漏れるようだった。
「あ゛――ッ、ん゛、お゛、ぉ……ッ」
声はきれいでも、男らしくもなかった。寝台の上で重たい身体を震わせ、彼女を押し潰さないよう必死に腕で支えながら、それでも腰だけは彼女の熱から離れられず、絶頂の余波に合わせてみっともなく痙攣していた。
彼女は僕の顔を見上げて、満足そうに笑っていた。僕の醜い顔も、震える胸も、下腹に垂れる精も、奥まで自分を飲み込んで離さない尻も、全部見ている顔だった。
見られている。
妻に。
そう思うと、達したばかりなのに、また胸の先端がきゅうと硬くなった。
「わたしも触っていいでしょう?」
頷くと、彼女の真っ赤な唇がうっすらと開いて僕の乳首をぱくりと挟む。柔らかい口唇でこりこりと弄ばれて、ピアスごと乳首が捩れる。もう片方も指で摘んだり引っ張られたり、めちゃくちゃにされる。
「ぁ、あ、うぁっ、ん、んー……」
達したばかりだというのに、またお腹の中が切なく熱くなって身体がぶるぶる震える。
彼女がふふ、と笑うその細かな振動で尚更腰に重たい快感が溜まる。
「乳首の周りもふわふわ、ふかふかして、とってもかわいい。女の子のお胸みたいなのよ」
彼女の小さな舌が僕の乳首を弾くように舐める。
自分の声がこんなみっともない鳴き声だなんて。認めたくないわけではない。劣情に溺れた鳴き声をあげるしかないのだと思うと昂揚が心臓を突き上げてくる。
彼女の舌は柔らかく、けれど先端だけが妙に鋭く感じられた。小さく弾かれる度に、胸の先端から腰の奥へ細い電信が走る。灯台の無線機に打ち込まれる救難信号のように、短く、間隔を置いて、しかし無視できない強さで。
「ん、あ……っ、そ、そこ……」
やめてほしいと言いたかったのか、もっとしてほしいと言いたかったのか、自分でもわからない。言葉というものはいつも遅れてくる。身体の方はずっと正直で、彼女を含んだ尻の奥は彼女の舌の動きに合わせてきゅうきゅう締まり、胸の上では銀の飾りが涎と月光を受けて淫らに光っていた。
胸だけを見れば女のようだった。肉付きのよい胸を寄せられ、先端を貫かれ、しかもそこを妻に吸われている。けれど顔を見れば醜い中年男で、身体は傷だらけで、腹には古い拷問の痕と戦争の記憶が線路のように走っている。まるで、人間の形にどうにか押し込められた廃墟だ。
その廃墟を、彼女はきれいだと言う。
それが何よりもおそろしい。
「あぁ……かわいい。胸を舐めるだけで、中まで締まるのね」
彼女の声が乳首に触れて震える。その震えがまた痛いくらい気持ちよくて、僕は腰を逃がそうとした。しかし逃げる先などどこにもない。彼女の上に跨っているのは僕で、彼女を奥まで受け入れているのも僕で、なのに手綱を握っているのはどう考えても彼女の方だった。
彼女の手が僕の腰を撫でる。薄く汗ばんだ皮膚を掌が滑り、指が尻の肉に沈む。華奢な手なのに、僕の身体はその力に逆らおうともしない。
