web再録同人誌試食経典儀の書き下ろし部分の試し読みです。
——要素——
ふたなり×異形頭(書籍頭)/オラオラ系ふたなり/雑に扱われたい迷惑系ドM受け/フェラチオ(?)
活本……本の異形頭のこと(造語)
スピン……本についてる紐状のしおりのこと
異形頭はふたなりの家に押しかけ同居しており、毎晩自身に記された話を読んで聞かせている。そんな異形頭の一人称エロ小説(信頼できる語り部です)。
間話 一千と一の夜伽
伊礼様は大雑把と合理性が同居する逸材でございました。
伊礼様のお宅はひどく殺風景です。六畳間にもキッチンにも、果ては押し入れの中にも、無駄な物はまだしも必要そうな物さえなさそうな有様でした。
眠るのは失敗したオムレツのように薄い使い込まれた寝袋で、服も季節ごとに二、三枚を着回す以外には仕事用の作業着くらいしかお持ちではありません。
ポストに投函された広告や郵便物はきっかり一週間溜めて、目を通しもせずにキッチンの床で黄色い口を広げる市の指定ゴミ袋に直接捨ててしまわれます。その動きはスポーツ選手のように無駄なく、非常に思い切りがよく惚れ惚れとしてしまう程です。
そして弊書はそれを掘り返して——テーブルなどというものはございませんので——畳に分類ごとに並べて片っ端から一言一句漏らさず読み砕きます。人間にとって活字は精神の栄養ですが、活本にとっては肉体の栄養です。こと弊書は悪食でございますから、いかな文章でも美味しくいただき消化もとい昇華する事ができるのです。それが例え詐欺紛いの訪問下取り業の禍々しく美の欠片もない色合いと字体の広告であっても。
重要な郵便物があれば開封して目を通した後に伊礼様に内容をお伝えします。職場の勤怠表であれば弊書が記入し、職場宛に期限までに郵送しておきます。その他手続きが必要な事柄についても同様に。
そして不要な紙片は透明のゴミ袋に入れて、雑紙回収日の朝に集積場へ。燃えるゴミで出すのは袋代が勿体無いですからね。
それが弊書に許された、あるいは黙認されている伊礼様の生活への介入でございます。
ああ、弊書の仕事はもう一つありました。
何を隠そう、夜伽です。
「おっ、お前っ、エロ本じゃん!」
初めての夜伽の終わりに伊礼様はそう申されました。丁度一話目の半ば程までお話したあたりでした。
「“エロ”いと思っていただけて何よりです」
内容の狙うところと読み手の感想の一致は重要な事です。例えばホラー小説のつもりがギャグとして受け取られてしまっては活本の矜持がボロボロですからね。それで精神を病んでしまう活本も多いのです。
弊書が目指しているのは淫らかつ“ほのぼの”でございます。明るいえっちはいいえっちです。
「ほのぼのしていただけましたでしょうか」
「しねーーよ!」
「それは弊書の不徳のいたぁわわわぉ」
弊書の頭が正面から鷲掴みにされ右に左に忙しなく向かされ、声が震えました。それだけで果ての気配が忍び寄ってまいりますが我慢いたしました。そこまで堪え性のない活本ではありませんからね。
「それに、なんか普通に本屋に売ってる本じゃなくね?」
しなる鞭のような指先が弊書の顔の右半分、裏表紙を指し示しました。図書コードもバーコードもついていない事にお気づきになられたのでしょう。その慧眼たるや天晴。
「弊書は小部数刷りの同人誌でございます」
お陰様で同貌同名の活本にまみえた事はありません。二都物語ほどの大御所になりますと、まったく同じ顔の赤の他人がうようよといる始末で、戯れに互いの服を取り替えても周りは気付きもしませんでしょう。
「なにが稀覯書だよ、それ誰も持ってないってだけだろ!」
伊礼様は荒ぶる虎のように弊書に掴みかかり「その嘘帯もやめろ! 全米が泣いたわけないだろっ」帯を剥ぎ取ろうとされました。帯文を考えたのは無名の作者であって弊書は無辜なので、こう責められてはたまったものではありません。そう、たまらないのです。
「あっ、ん、帯、破れ……ぁ、っん」
「へ、変な声出すな」
「ですが」細くかさついた指に顔を撫でられますと、どうにもこうにもはしたない声が出てしまうのです。「あ……っ!?」
なんと大胆で性急な、もう弊書を紙屑にしてくださるおつもりか、などと歓喜に湧くのも束の間、気付けば我々は折り重なって寝袋の上に倒れ込んでおりました。
「あ、お、ごめん……」
こんな唾棄すべきマゾヒストの活本なぞに謝る理由など何一つあろうはずもございませんのに。伊礼様は弊書の体の上で居心地悪そうにもぞもぞと動き、起きあがろうとなさっていました。
引き締まった痩せ型ではありましたが伊礼様のお身体は女性的な妙なる柔らかさを備えており、実に離れ難いものでした。
そして特筆すべきはその下腹部の猛々しい塊です。部屋着の薄いショートパンツを押し上げて、弊書の腹部に押し付けられておりました。
それら相反する二つの性質が弊書の身を擽り、心を掻き乱しました。なんということでしょう!
「まさか」
そうです、伊礼様は雌雄両方の性質を持つ崇高にして比類なき半陰陽《ヘルマフロディテ》だったのです!
「嗚呼ッ伊礼様……!」
「キモい、突然頭開くな」
あまりの高揚に顔が真っ二つに開いてノド奥や果てはスピンまで晒してしまっていたようでした。失神寸前の感激に気が緩んだとはいえ、活本として非常に恥ずべき事です。求められてもいないのに自らの身の内を露出するなど。
「なに、驚いたわけ、そういうエロ本のくせに」
いつもはつんと冷たい雰囲気の伊礼様のお顔にふんわりと朱がさして、常ならば真っ直ぐ射抜くような眼差しはうろうろと彼方を彷徨っておりました。なんとお可愛らしい事でございましょうか。凛々しさと愛らしさの同居する複雑にして神秘的なお方です。
「ええ、驚きました。願ってもない事でございましたから!」
たまらず弊書は伊礼様を抱きしめ、押し倒し、床と己の肉体の間に閉じ込めました。もはや逃しはいたしません。絶対に。想いを遂げるまでは。
「弊書を滅茶苦茶に! バラバラのボロボロのほのぼのに! してくださいませ!」
「いやそれにしては体位がおかしいだろっ」
何のおかしい事がございましょうか。
「なにが? みたいな顔すんなっ」
活本の表紙から表情をお読みになれるとは、さすが伊礼様。脱帽せざるを得ません。
「そう慌てる事は何もございませんよ。すぐにあなた様に主導権をお渡しいたしますからね」
弊書は伊礼様のズボンと下着をずり下げて恭しくそれに触れました。なんとも雄々しく、しかし弊書の手の内で震える様は初々しくもありました。
「素晴らしいですね」
少し触っただけで手中の肉棒は芯を増していやましに硬くそそり勃ち、弊書を圧倒してきました。
何度見ても慣れるという事はなく、今でもそれを目にするだに貫かれ征服される瞬間が勝手に想起されて背が震えてしまうくらいです。
「ちょっ、おぉ、やめ……」
などとおっしゃっていても——陳腐な表現で些か使うのが躊躇われますが——体は正直なものです。上がる吐息に形よい小ぶりな胸は震え、腰は艶かしく捩れて、先端から染み出すは愉悦の先兵。
悍ましいまでにご立派な肉槍の鋒から涙が滲むように透明の欲汁がぷくりと浮き出してくる様子が大層愛おしく感じられて、はしたないとは思いましたが抗えず、弊書は顔を薄く開けてスピンを差し出すと伊礼様の逸物の先端にちろりと這わせてみました。
「あ、うぁああっ、なんだそれっ」
「スピンでございます」
「ばかっ、そういう意味で言ってんじゃ、あぁーっ」
伊礼様の腰が跳ねて身も世もない甘い悲鳴が耳を打ちました。なんと可愛らしい事でしょうか。弊書はぺとりぺとりと、何度も何度もスピンで先走りを舐め続けました。緋色の細い紐が伊礼様の涙を吸い取り色濃くなってじわりと重たくなってゆくのです。
こんな風に誰かの体液に塗れるのは初めての事で、自らを穢す悦びに頁の一枚一枚に染み込んだインクがじんじんと熱を持ち、酩酊とはかくやという有様でございました。
弊書の高揚する官能に、いつの間にか乾いた薄い笑い声が寄り添っておりました。低く地を這いくぐもった暗い音でした。悪魔か、獣か、弊書には分かりかねました。
何笑ってんだごらぁ、と伊礼様に肩を蹴られてやっと、それが他でもない弊書自身の声だと気付きました。こんな笑い声を漏らしたのは初めての事です。
たがが外れるとはこういう事でしょうか。まあ、外れてしまったものはもう仕方がありません。時に理性は捨て去り衝動に身を委ねるべきです。
逃げを打つ伊礼様の細い腰をおさえつけて、弊書は昂りに顔を近づけてゆきました。徐々に顔を開きながら。落ちる影はさながら羽を広げて獲物に降下する猛禽でした。
そして捕まえたのです。
伊礼様の狂おしいまでに愛おしい雄の象徴を。包み込んだと表現した方が美しいかもしれません。
二つに分けた紙束で怒張を挟み込み、磨くようにゆっくりと頭を揺さぶりますと伊礼様の甲高い悲鳴が狭い部屋を満たしました。
「ひ、いいぃっ、だめだっ、て」
怒張の先端から止めどなく溢れる先走りが頁にねとりと纏いつきました。表層から一枚また一枚と伊礼様の愉悦の証が染み込んでくる遅効性の快楽といったら!
「汚れる……っつの……」
「それが弊書の願いでございます。ああ、伊礼様が穢れているという意味ではございません。念のため」
「こっちはそういう趣味じゃないっ……」
などとおっしゃっても、伊礼様の逸物は猛々しい盛りを失う事はありませんでした。意気消沈しないという事はつまり、お分かりでしょう。素質は十分という事に他ありません。
「物を粗雑に扱う悦びを、きっとなあなた様なら分かってくださるはず。そして弊書に誌上最高の法悦を下さるはず」
そう言い終わるか終わらないかのうちに、弊書の背は畳に叩きつけられておりまして、頁がばさりと音を立てました。
「お前は本当にそういう扱いされたことないからそういうこと言えるんだろ。そういう風にされたいって思えるんだろ」
見下ろしてくる顔は怒りに満ちて、鋭く、美しくも清廉でございました。
「弊書が先程言った通りになりましたでしょう。主導権をお渡しすると」
「渡されたんじゃあない、獲ったんだ」
言葉だけで果てに至る事もあるという知識はありましたが、まさに経験に勝るものはなく、弊書は伊礼様のお言葉にぶるりと身慄いし、言葉というものの威力を身をもって知らしめられたのでした。
伊礼様は弊書の胸倉を掴みまして上体を起こさせますと剥き出しのそこを弊書の表紙に擦りつけました。欲望にしとどに濡れた肉槍の通った道は、おそらく艶やかに輝っていた事でしょう。
「お望み通りにしてやるよ」
小口の下辺——人間に置き換えると顎とでも申しましょうか——に添えられた指に上向かされ、乱暴に顔を開かれます。背表紙に折れ筋がつきそうな程に。たまりません。
そして肉槍を栞代わりに頁が閉じられ、弊書は完璧に伊礼様の性処理道具に成り上がっておりました。性器を扱くだけの穴でございます。
頭部を両の手でしかと押さえつけられ、貫き、あるいは掘削するように往っては返す怒張。頁は皺が寄り、破れかけ、脳内に響く音は紙が捩れる音なのか、粘液が迸り暴れる音なのか判別がつきませんでした。もはやどちらでも良い事です。
「お゛ッ、ん゛、っごぁ……ッ」
はしたない声が漏れてしまっても、もはや自らの意思で押し留める事は不可能でした。背の天から地を駆け巡った興奮が脊椎に流れ込み骨盤の中を霆のように荒らして回るのです。これが我慢などできましょうか。できませんね。
「変な声っ、出すなっ!」
「も゛、しわけ、ぉ゛っ、む゛りっ……」
「あー! キモい声出しやがってぇええ」
弊書の使い道のない性器は伊礼様のように猛々しく勃起する事もなく、ただ悦びの汁を漏らして服を濡らしておりました。
「ア、あ、あっ、このままっ、伊礼様の……塗りつけられたらっ、はぁっ……官能小説にっ、なって、しま……ぁッ」
「ふざけんな元からエロ本だろうがあー!」
開き癖がついてしまいそうなまでに激しく握られ擦り抜かれ、廃棄の際《いまわのきわ》が脳裏にちらつきました。
弊書の頭にはいつの間にやら細い両腕が巻き付いて、押さえつけるというよりは縋り付くような有様でした。
「うっ、あ、出る……」
弊書の地に柔らかな腰が押し付けられて、その時は来ました。
弊書の中で弾ける伊礼様の愉悦。
「頭……っ精液、でっ、いっぱい……おっ……おぉお゛——」
ノドにじっくりと精液を注がれ、塗りつけられ、思考は溺れて、もはや浮かぶのは焚けそうな程の肉悦の火花だけでした。
伊礼様の表情を窺い知る事はできませんでしたが、悦んでいただけていると嬉しいと思いました。
後に残るのは感動、法悦、浮遊感。
気付くと弊書は伊礼様にティッシュで拭いていただいておりました。あの、無造作にポケットに突っ込んだティッシュで。
「なんかごめん」
存外その手付きは優しく、表情も悪びれた様子でした。伊礼様がそんな行為も表情もなさる必要はないというのに。
「何を謝る事がありましょうか」
本当なら背を向けてつまらなそうに煙草を吸ったりスマホを弄っていて欲しかったものです。まあ生憎、伊礼様は煙草を呑みませんし今時まだガラケー派なのですが。
「汚しちゃったし、ページ破れそうだし」どうしたらいいかな、と胸の前でもぞもぞ蠢く指。どうしようもこうしようもありません。その思わぬ稚い仕草に弊書はどきりとしてしまいました。中古本にした責任をとってください、と意地悪を言いたくなってしまうではありませんか!
とはいえ弊書は自他共に認める善良な活本です。
「ご安心ください。二、三日もすれば生え変わります」
「こういう時に冗談やめろ」
「いえ、髪の毛と同じですよ」
「まじか」
「まじです」
おー、と気のない相槌を打った後、伊礼様はふらふらとキッチンに立ちまして、流しに置きっぱなしのコップで水を一口飲んだ後、キッとこちらを振り向いて怒声をお上げになりました。
「人とすんの初めてだったんだぞ! 初めてがこんな……本に挟まれて……」
「初めて」てっきり伊礼様は老若男女問わずその場限りの相手を押し倒して掘りに掘り抜いてきた歴戦の勇士で、弊書の事も激情のままに苛めてくださると思っておりましたので「それはちょっと解釈違いですね」
「なんだよそれ生身の人間に言っていいことじゃねーだろ!」
出てけ奇行書! と伊礼様は弊書の横面をぱしぱしぱしんと叩かれたのでした。悦ばしく甘美でございました。
これが弊書の勤めでございます。
休題
以上です。これ以降もドM異形頭にS行為を乞われ、嫌だ嫌だと言いつつなし崩し的にエロいことをするふたなりの話が再録短編の間に挟まっています。
愛のあるほのぼの連作となっておりますので、これでご興味をもっていただけましたら、なにとぞなにとぞ。
よろしくおねがいいたします。
