祝日特急南西へ - 3/7

「用があるのは、あたしにじゃないでしょう」
 この機械泥棒の狙いはT4-2。炭素生命体など眼中にないはずだ。
「そうとも限らんで。お姉さんと仲良うなったら、牧島重工製四五式トロイリ四型汎用亜人型自律特殊人形第弍号ちゃんとも、もっとお近づきになれるやん」
 その長い名称を、そらで淀みなく言えるだけでも感服に値する。滅茶苦茶、知能が高いに違いない。あるいはただの執念深い変質者か。あるいはその両方。
「将を射止めるならまず馬から、って言うやん」
「あたしが将ですが」
 鉄仮面の奥から、機械公爵の目がマナを予断なく検めているのを感じる。しまった、と思うより先に口が動いていた。馬などと言われて黙っていられるほど、軟弱ではない。
 そりゃあ、時折T4-2に騎乗位で主導権を握られることはあれど、最後に馬乗りになって優位に立つのはマナだ。たぶん。おそらく。きっと。
 機械公爵は顎を指でさすりながら、ほぉーん、といった緊張感のない感嘆を吐き、そして再び身を乗り出してくる。
「お姉さん、いや、内藤何某さん? あんた牧島重工製四五式トロイリ四型汎用亜人型自律特殊人形第弍号ちゃんの、いったい何なん? 大体一緒におるよね。ついでに言うと、一緒に住んどるやろ」
 剣呑な問いかけに呼応するように、近くの機兵がマナへと銃口を向ける。
「何でそんなこと知ってるわけ」
 よもやこいつも他人をつけ回すような変質者なのか。見た目言動どちらを取ってもその可能性は否めない。「うちはお姉さんと違ってちゃあんと毎朝新聞を読む高度な知的生命体なんよ。新聞は何でも、仔細漏らさず分かりやすく書いてあるで。牧島重工製四五式トロイリ四型汎用亜人型自律特殊人形第弍号ちゃんの配属先から、相棒の名前、下宿先、住所の町名までな」
 まったくプライベートなどあったものではない。マナは腹立ち紛れに自分に向けられた機銃の銃口を鷲掴んで逸らす。
「あかん、そんなん強く握られたら、出てまうよぉ。んで、文京区湯島の内藤さん。あんた見とったら、牧島重工製四五式トロイリ四型汎用亜人型自律特殊人形第弍号ちゃんのケーサツの相棒よかよっぽど相棒みたいに振る舞っとるよね」
「何を見た」
 もしやマナの超能力や過去までも知られているのではないかと、自然と語気が強くなる。
「やっと慌ててくれた」マナの怒気に気付いてもいない様子で機械公爵は嬉しそうに笑う。「もしかしたらお姉さんも機械なんじゃないかとちょっと思っとったんよね。初めて会った時も、今も、妙に落ち着いとるやん。けど一応」機械公爵は機銃を掴むマナの手を見る。「人間みたいやね。安心したわ。お姉さんみたいなけったいな機械欲しないもん」
「何を見たか聞いてる」
「おお、こわ」
 肘掛けを握る手に力が籠る。季節外れに乾燥した空気がマナの首筋をぱちぱちと撫でる。何故こんな時にT4-2がいない——
「T4-2はどうした」
 機械公爵が愛しのT4-2でなく、マナと悠長にしゃべっている理由。それは既に彼を手中に収めたからでは。
「こっちもそれを聞こうと思っとったんやけど」
「はあ」
「ま、ええか。牧島重工製四五式トロイリ四型汎用亜人型自律特殊人形第弍号ちゃんは必ずお姉さんのとこに来る」
「あたしなんかじゃ人質にはならないよ」なるつもりもない。
「何言うとん。この列車、何両編成で何人乗っとると思ってん。で、三つ先の駅に何があるか、トロイリ四型ちゃんに見えとらんわけもないよね」
 マナは急いで窓に張り付き外を見る。三駅先の駅舎は見えないが、その黒い影はこの距離からでもよく見えた。
「牧島重工製四五式トロイリ四型汎用亜人型自律特殊人形第弍号ちゃんがうちと来ないなら、この列車ごと」機械公爵の手が何かを掬うジェスチャーをする。列車ごと持っていくということだ。墨田工場の時も思ったが、本当に迷惑な奴。
 機械公爵は無作法にも旅行者の内ポケットをまさぐり、懐中時計を取り出して時間を確認する。
「到着まではまだあるし、ゆっくり歓談でもしよや」
 ひび割れた声に混じる不気味な笑い声。マナの愛好する鋼の声と違ってひどく不快だ。
「で、お姉さんは牧島重工製四五式トロイリ四型汎用亜人型自律特殊人形第弍号ちゃんの、何なん?」
 T4-2に聞けば、マナは自分の所有者あるいは主人だと声高に言い放つだろう。
「別に。何でもないよ」
 ただマナにはT4-2の言葉を代弁してやる義務はない。
「じゃあ、うちのもんにしよ。あの身体も」
 T4-2をもらって何をするというのか。まさか軀の自由を奪って解体したり回路をいじくったりしながら性的な拷問でもするつもりか。で、T4-2はマナ以外とそういうことはしたくないと泣き叫びながらもそれには徐々に甘ったるい色が混じってきて……けしからん。
「顔も」
 マナはT4-2の支配者や所有者であるつもりはない。しかし、彼の自由や、マナの物でありたいという意志を踏みにじるような輩は、この世から全力で抹殺排除せねばならない。と、マナは意外なほど冷静に、しかし激情を背負って、もっともらしい理由を思い浮かべた。
「心臓も」
 マナは怨敵の顔面と思しき場所を睨みつけ、銃口を握ったままの手に、ゆっくりと力をこめる。握力ではない。それよりもっと漲る磁力の方だ。
「この野郎」
 無様に鼻血を噴き出して死のうが、それが何だというのか。それよりも耐えられないことがある。
 もっともらしい理由という武装は吹き飛ぶ。残るのは剥き身の激情だけ。
 金属が呻く。マナの手の中で銃口が軋んだ音だ。
 機械公爵が何かを察知して息を呑んだ瞬間。
 弾けるように全身から何かが迸った。
 鼻の奥を刺す異臭。毛が逆立つような紫電。豪雷が大木を裂くような轟音。
 閃光と耳鳴りが去った後、誰もが呼吸を忘れていた。車内に安寧の静寂が訪れる。残されたのは、倒れたり、バラバラになったり、融解したような機械の残骸。そして割れた車窓が一枚。まるで大嵐が通り過ぎたかのようだった。
 誰かがふぅ、と吐き出す息の音。
 マナの乾燥した髪の毛の先から、磁気の残滓が零れ落ちた。
 鉄塊は悲鳴を上げる暇もなく車窓を破って車外に放り出され遥か彼方、それと同時に機械の兵達は激烈な磁力に轢き潰されて一機残らず機能停止。
「すごい」
 自分でも、どこか他人の声のように聞こえた。
 鼻の下を拭ってみるが指に血の色はなく、身を裂くような痛みもなく、立ち上がってみても列車の揺れに体幹が流されることもない。
「やってやった」
 マナはもう一度阿呆みたいな声を漏らして辺りを見回す。
 緊張と恐怖に静まり返った車内の視線は、一人棒立ちのマナに注がれている。人的被害がないのは幸いだが、それ故に少々目立ってしまった。
「あのロボット警官がやってくれた。皆さん彼をね、今後ともよろしく。良い人だから」
 とマナはわざとらしく深く頭を下げ、通路に敷き詰められた残骸を踏み荒らしながらデッキへ向かった。
 探している人物の名を呼びながらパリパリと残骸を踏みしめながらデッキに出れば、そこにも騎兵の残骸が折り重なっていた。白いパーツが積み上がった様はまるで砂山。その下から微かにマナの名を呼ぶ声がする。
 骨のように軽い残骸を手や磁力で掻き分けて、下敷きになっていたT4-2を引っ張り出す。
 いいだけ揉みくちゃにされたようで、外套は肌蹴て、ネクタイも歪んでいる。床に落ちた帽子は無残に踏み荒らされ芯を失っていた。マナによる荒々しい情事のときですらこうまで服装が乱れることはなく、さすがに、ちょっとだけ可哀想になった。
 両手をビールとジュースの瓶で封じられての応戦はさぞや堪えたことであろう。万全の調子ならいざ知らず、今のように機能も情緒も乱れていては、さぞや堪えただろう。
「遅刻だよ」
 マナは帽子を拾い形を整えてT4-2の頭に載せてやりながら目の奥を伺う。特段変わった部分は無さそうだ。いつも通りの、真夜中の南天に煌る満月のような光。
「服はまったく無事ではありませんが機能面では完璧でした。想定以上だったかもしれません」
「どこが。埋まってたくせに」
 マナがT4-2から飲み物の瓶を無造作にむしり取ると、彼は空いた両手で着衣の乱れを直しながら少しばかり恨みがましく言う。
「埋まって服が汚れたのはあなたが持てる限りの磁力を無軌道に解放したせいです」
 感覚の優れているT4-2にはデッキにいようが客車でのマナの後先考えない武力の行使が知覚できたようだ。
「やらなきゃやられてた」
「そのような剣呑なやり取りにも聞こえませんでしたが」何を聞いたらそうなるのか。「しかしあなたがあの場で力を発揮したことで奇しくも隕鉄の遠隔使用に関する試験になりましたので、結果としてはよかったです」
「何の話」
「昨夜申し上げた通り、私はあなたに適した形でこの身に宿る隕鉄の力を提供できます。接触することなしに。どの程度の遠距離まで作用するかは今後更に実証を重ねる必要がありますが」
「そういうことはもっと早く言って」
 知っていれば怨敵の存在を認めた瞬間に気持ちよく途中下車させられていたはずだ。
「申し訳ありません。ついうっかり」
 マナが威嚇にも似た溜息をついて睨め付けるのも意に介さず、T4-2は他人事のようにさらりと謝るだけだ。
「あんたのことたまにぶっ壊したくなる」
「たまにですか」
「一日五回くらい」
「先程気分良く大暴れなさったのですから、あれで本日の五回分に充当させましょう」
 ね、とT4-2はマナの前に五本指を立てた掌を向ける。
「せいぜい二回分だよ」
 マナはT4-2の指三本を折り畳んでVサインに変える。
「まあ、結果オーライか。勝ったようなもんだし」
 マナは唇を歪めて性の悪い笑みを浮かべる。思えば悪くない気分だった。一方的に敵を蹂躙するのは快感だ。悦楽だ。法悦だ。
「列車の窓は割りましたね」
「勝利の美酒に水をささないで」
「次に機械公爵が現れてあなたに……」
「大丈夫。周りの物は壊さないようにぶっ飛ばすから。視界の端に映った瞬間に」
 T4-2は珍しく、ええ、まあ……と歯切れの悪い曖昧な音を発する。
「ええ、そうなさるのが一番あなたらしいでしょう。ちなみにあなたは先程“この野郎”とおっしゃいましたが、機械公爵は野郎ではありませんよ」
「ああ、自分を“うち”って言うのは女だね」それも、まあまあ若い女だ。
「私は言語的に推測したのではありません」T4-2は己の瞳の横を指でこつこつ叩く。「確かに中身を見た上での断定です」
「はいはい、温度でね」
 赤外線視覚だかなんだかで、マナは自宅の外壁越しにあれやこれや覗き見された晩の事を思い出し、辟易とした。まあ今回は明らかな悪人に用いている分まだよしとしておく。
「いいえ、今回はX線……病院のレントゲンと同じです。機械公爵の骨格は女性の特徴を有していました。詳しく申しますと、骨盤が」こう、開いて、とT4-2は己の下腹のあたりで、まるで優美な蝶の標本のように手を左右に広げた。
「気持ち悪い男だね」
「男ではなく、女です」
「あんたのことを言ったんだよ」
 マナがT4-2の肩を指先で小突けば、巨躯が簡単に傾く。T4-2は背を壁に預けて、汗をかくはずもないのに、癖のように帽子をずらして額を擦る。深呼吸するように大きく上がって、また下がる肩。
「あんた相当機能不全だね。これくらいでよろけるなんて」
 倒れそうな巨躯を咄嗟に抱いたマナが見上げれば、T4-2は素直に頷きそのまま萎れたように項垂れた。大きな軀をどうにかマナの抱擁にすっぽりと収めたいのか、T4-2は重たい頭をマナの肩に乗せて窮屈そうに身を屈め、縋るようにマナの腰の背に手を回して、しがみついた。
「牧島博士の元へは解体して宅配便で送るべきだったかもしれません」
「送料の方が運賃より高くつくんだよ、お大尽さん。とりあえず今は警察に足止め食う前に途中下車した方がいいかもね」後でまたこの出来事を知った兄に滅茶苦茶怒られるだろうけど、とマナは心中うんざりする。「それで別の列車に乗って、さっさと目的地に行こう。でないとあんた動けなくなって本当に宅配便で送らないといけなくなる。荷物とってくる。待ってて」
 踏み荒らして来た道を再び辿って客車に戻ろうとするマナの手が弱々しく掴まれる。
「何」
「……何でもなくは、ないですから」
 何のことだかさっぱりで、マナは、ああ、そう、とだけ頷いてデッキを後にした。

 鎌倉駅で列車を降りて、徒歩数分。牧島邸へと続くのは、洋館がまばらに並ぶ緩やかな坂道だった。その界隈を、T4-2は肩で息をしているかのように、上半身を上下させながら歩いていた。繋いだ手は手袋越しにも熱い。T4-2の不調はなかなかに酷そうだ。
 T4-2は駅を出て早々、歩行速度が遅いこととマナに荷物を持たせていることを言葉少なに詫びた後はただ沈黙。坂の半ば、マナは両手を広げて「海が見えるぅ〜!」とおのぼりさんよろしく叫んでみせたが、T4-2は「海沿いですからねえ」と切れ味の鈍いことを言ったきり無言だった。
 珍しく口数少ないT4-2が不気味で、マナは突飛な質問を暴投してみることにした。
「あんたの親さあ、悪の科学者とか、悪の組織のトップとかじゃないよね」
 これで反応がなければ重症だ。牧島邸まで担いで行って、牧島博士とやらに、お願いT4-2を治して! と泣きながら頼む羽目になるかもしれない。
 しかしそこまでの心配は杞憂なようだった。
「牧島博士は私の親ではなく製作者です。悪の科学者ではないとは言い切れませんが、悪人ではありません。あなたも彼に会えばきっとそうではないと……」
 その時二人の横を颯爽と横切る自転車乗り。T4-2は勢いよく振り向き自転車乗りの背に呼びかける。
「牧島博士!」
 自転車は緩やかに止まり、降りた男は軽快に自転車を担いで元来た道を颯爽と戻ってくる。痩躯でありながら今のT4-2より随分元気そうだ。
「ああ、のたりのたり歩いて、どこのアベックかと思ったら二号じゃないの」
 ヘルメットに鏡面加工のゴーグル姿。六十はとうに過ぎていると思われたが、歳の割に無駄のない体型。小脇に抱えた競技用自転車の持ち主に相応しい見た目だった。
「到着時刻をお伝えしたのに、何故サイクリングに」
「だっておまえのことだから、どうせ駅で迷うだろうし、体内時計ふんわりしてるから、列車を三本くらいは逃すと思ったんだもん」
 きりきりした身のこなしとは対照的に、牧島はゆったり間伸びした柔らかい話し方だった。
「時間経過の感覚にはまだ疎いですが、方向音痴は克服しました。地磁気を知覚できるようになったのですよ。あとはX線も利用できます」
 すごいでしょう、と言わんばかりにT4-2は両の人差し指をピンと立てる。地磁気とやらを受信でもしているのだろうか。妙に堂々たる仕草が、むしろ胡乱さに拍車をかけている。
「すごいじゃない、自分で機能を拡張したってことかい。まあその話は後で」牧島は素直に感心しゴーグルを首元まで引き下げる。悪意など一片もなさそうな瞳が現れ、マナに向けられる。「それでこちらは」
「紹介が遅れました。牧島博士、こちらは内藤マナさん。マナさん、こちらは牧島禅博士」
 T4-2のお行儀良く揃えた指先はマナと牧島を忙しなく行ったり来たりする。
 躾のなっていないマナは軽く片手を上げてどーも、と言うだけだ。
「おお、きみが噂のマナちゃん! わたしが想像していたよりもずっとエキゾチックでヴァンプな女の子だねえ。それに、うん、確かに二号が言った通り、高畠華宵が描く耽美な少年の雰囲気もある」
 マナよりも小柄な牧島は下から矯めつ眇めつ彼女を見上げて品評する。被造物に負けず劣らずな造物主だとマナは呆れる。
「不適切な発言です」T4-2は牧島の眼前に掌を突き出す。「内藤さん、あるいはマナさんと呼んでください。そして外見に関する言及は避けてください。また、彼女は女の子ではなく立派な女性です」
「どの口が」あんたもさらさら他人を批判できる言動してないだろうが、とマナはT4-2に唖然とした顔を向ける。もうまったく二の句が継げない。
 牧島は「二号めんどくさい……」と呟き、T4-2の大きな掌からちょっこり顔を出して続ける。
「内藤さんご一家にはいつも二号がお世話になっているね。よく話を聞いているよ。特にあなたの話はかねがね色々なんでも」
 なんでも、とは引っかかる響きだ。
「どんな話」
 どうせT4-2のことだ、マナの超能力だとか、二人でT1-0に乗っているとか、朝な夕なに変態度の高い性行為をしているとか、あることないこと——嘘はつかないらしいから、あることばかり、か——べらべら細大漏らさず針小棒大に報告しているのだろう。
「たとえば、いつも季節感のないブラウスとスカートで、ビールとお寿司に目がなくて、工場勤務で、掠奪者の帝王にして女帝、小麦色の肌、緑の黒髪の、目元涼しく、いつもツンとして不機嫌そうな、肩で風切って歩く、物質主義者の、聴覚過敏で、不器用で、口さがなく平等に他人につっかかる、すべての生命体がうっすら嫌いで、情に厚くて、強くしなやか、口癖は“最悪”“変態”“滅茶苦茶”“やらしい”で……まあ他にも色々。特によく聞くのは二号はあなたがとっても大好き、ってこと」
 随分とよく言ってくれたものである。
「あたしもずっと会いたかった、牧島博士。言いたいことがたくさん」
「嗚呼、もしや、さては、T4-2を作ってくれてありがとう、ですか」と、胸に手を当て首を傾げて微笑みを投げかけてくるT4-2に、マナはじっとりとした笑みを投げ返した。
「この人、初めて会った時からあたしに目をつけてつけ回して、監視して、次に会った時には無理矢理変態行為してきたし、他人をすぐ煽るし、執着と拘り強すぎるし、デカいし、なんかとにかくデカいし、金持ってないし、服にうるさいし、時間にルーズだし、毎朝毎晩迫ってくるし、デリカシーも情緒もないし、慇懃無礼だし、人の話聞いてるようで聞いてないし、何でも自分の都合よく解釈してくるし、言うことも聞かないし、一挙手一投足が滅茶苦茶卑猥だし、視線もやらしいし、エセ紳士! お喋り野郎! マゾ! 変態! 最悪!」
 マナの剣幕に押されて二、三歩後ずさった痩躯の老人は「受け取って一月経つものはもう返品不可なんだ。じゃ、準備があるからお先に失礼」
 そう言い残して自転車で颯爽と坂道を駆け登って行った。
「それで、内藤マナさん、彼が悪人に見えましたか?」
 十分な時間をかけて牧島を見送ったT4-2はマナに向き直り問うてくる。
 概ね善良そうではあるが果たして「あんたみたいなのを作ってこの世に放流したって点では極悪人かもね」というのがマナの所感であった。