祝日特急南西へ - 7/7

「頭に迫撃砲が当たるのってどんな痛さだい」
 そんなの頭に迫撃砲が当たるような痛さに決まっている。しかし当たったのが自分でよかったかもしれない。これが牧島邸だったらと思うと。
『住宅街で飛び道具を使うな!』
 その声はT4-2のものだった。けれど、あの慇懃で艶めいた響きはどこにもない。乾いて、どこか必死だった。
『ついてるもんは使わな、もったいないやん』
 その言葉を裏打ちするように、そして見せつけるようにダークフェンダーが背に負う砲口が牧島邸に向けられてゆく。
「やめろやめろやめろ!」
 考えるより早く、身体が砲口と牧島邸の間に飛び出していた。炸裂する砲弾。全身の痛み。燃えるような。
 殴る蹴るの痛みで戦意を喪失するほど“やわ”ではないが、さすがに爆発は効く。
 とうとう地に膝をつくT1-0。巨躯を支える掌の下で庭石が割れる。
『思った通り自分から当たりに行きよるね。それにしても精彩を欠く動きや。あのデカい盾くらい出したらどないやねん。具合悪いんか』
 確かに具合は悪い。
 T4-2がいなければ満足に戦えないなんて屈辱である。マナの心に深く迫る感情はそれだけではない。一人では守る事すらできないという忸怩たる苦痛。
 腰に巻きつく機械仕掛けの腕が、耳元で囁く、穏やかな声がないだけで——こんなにも自分は弱く不完全だ。
 心臓がなくとも身体は動く。だが、魂の鼓動がなければ、心と肉体はバラバラになってしまう。
『まぁた初めての時とおんなじやね、土つけられておしまいや』
 ジェット噴射の乗ったパンチで地に沈められるT1-0、マナのお節介なくしては易々と攫われていたであろうT4-2……墨田工場でのあの情景が脳裏を過る。
「あんたの美徳が必要だよ」
 諦めかけたその時。
「お待たせしました、マナさん」マナの乱れた神経を鎮静する声。「修理中で同席できず申し訳ありません」
「待ってないけど」
 口元は笑いながらも、声はぶっきらぼうに返す。
「思い出してください。百貨店で接吻をしたあの瞬間」
 超能力者三人組に襲われた時のことを言っているとすぐわかった。超能力者達をケーブルで縛り付けたT4-2に抱き着いたマナは、彼に口づけをして……紫色の閃光が散った。
「私のケーブルに迸ったのはあなたの磁場が起こした電流でした。まるで愛の渦」
 そう、渦だ。T4-2の唇に分け与えた磁力が彼の欠けた身体で増幅されてケーブルを紫色の電流そのものにした。
「でも、あんたがいなきゃあ……」
「一人でもできていましたよ。列車にて、あなたは機銃を握りしめ、そこに紫電を纏わせ放出しました」
 その感覚ならわかる。大いなる怒りの螺旋で銃口を包んで勢いよく爆発させた。
「大丈夫です。あなたは一人でも十分お強いのです。思い出してください。初めて私と会い、破壊しようとした時の、あの気炎と……美しさ」
 よし、とマナの気持ちが切り替わる。単純が故の利点だ。
 問題は電流を作り出すには持てる磁力をすべてつかわなければならないということ。そうなるとダークフェンダーを倒す余力がなくなる。
 さて……と考えあぐねて、先程の機械公爵の言葉を思い出す。
 ついてるもんは使わな、もったいない——その通りだ。
 確かにT1-0はダークフェンダーのジェットパンチに一度は破れた。しかし今その剛腕は己が右腕にあるのだ。そしてあの時にはなかった磁力も。
「よし、ジェットパンチで王手だ。神経接続みたいに、遠隔で操作できるんでしょ」
「できますとも、我が略奪の帝王にして女帝」
 T4-2の肯定をかき消すのは海崎の怒号だ。
「やけを起こすんじゃあないよ! 身体の中でジェットエンジンが爆発して激突する、その痛みが」「わかってる」
「あんたは機械じゃあない、生身の人間だ。負荷がかかるのは右腕の神経だけじゃ済まない。右半身、あとは心臓……死ぬ気かい!」
「死ぬ気でやるけど死ぬ気はない」と答える。「終わったらT1-0も治してあげてよね」
 T1-0マナはすっくと立ち上がる。
 やらなければやられると思った時、痛みも悔しさもなくなる。精神の高揚が軟弱なすべてを燃やし尽くす。不思議と心臓が熱く心強い。まるで隕鉄でできているかのように。
『おおっ、諦めへんのは“らしい”やん。牧島重工製四五式トロイリ四型汎用亜人型自律特殊人形第弍号ちゃんは、そうでないとあかんわ』
 喋りながらも機械公爵の攻撃の手は止まず、マナもノーガードで攻撃を受け続ける。防御に神経を割く余裕はない。すべては磁力に。力が切れる前に、一瞬ですべて終わらせなければならない。
 T1-0の黒いボディに奔る青い耀き。殴られ、蹴られ、そして撃たれ、凹んだボディに錯綜する光は、いつもの直線ではなく、波紋のように揺れ、古代の祭祀具のように絡まり、刻まれた紋様となる。
 身体を駆け巡る磁力の行き着く先は足元と、左腕だ。
 左腕に這わせた磁力で無理矢理鉗脚を抉じ開ける。これさえできれば準備としては完璧だ。
 そしてジェットエンジン搭載の重たい右腕でダークフェンダーの胸を殴りつける。素人のゆるい殴打は硬い胸板に辿り着くどころか相手の両手でがっちりと掴まれてしまう。それも想定のうちだ。当てる必要はなかった。相手がきちんと受け取ってさえくれれば。
『お、右腕返してくれるん?』
『その通り、お返しだ。しっかり持ってな』
「いくぞT4-2、準備しといて!」
 開けておいた鉗脚がばちんと盛大な音を立てて閉じる。捩じ切られる肩関節。
『なっ、なにやっとんねん、うちの、いや自分の……』右腕を切除したのだ。T1-0の。逃げる為の自切ではない。生きて勝つ為の。
 敵への痛恨の一撃をジェットパンチに託せるならば、残りの磁力はハサミと電線の修理に充てられる。
『やれっ、ジェットパンチ!』
「騎兵隊突撃!」
 二人の叫び声と共に、右腕が火を噴き、轟雷のような爆裂音を撒き散らす。同時に両足から流れ出る紫電が煌めく影となって地を駆け抜けて電流を繋ぐ。
 邸宅の窓という窓からまばゆい光が溢れる。そして破裂するダークフェンダーの胸。
 爆煙が引いた後には、胸に大穴の空いた黒い巨軀が地に臥している。機械公爵はその傍に転がって、リモコンはその手を離れている。
 勝負はあった。
 ほんの僅かだが、まだマナの体力は残っている。だが温存する程の量でもない。ならばここで刹那的に使い切るのが一番いい。
 振り上げたハサミが陽光を受けて鈍く輝く。リモコンに手を伸ばそうとする機械公爵を地面に縫い留めてやるのだ。
 しかしその鋭い切っ先は黒い手に阻まれる。ダークフェンダーが自ずから動いたことに驚いた機械公爵がぽつりと呟く。パパ、ママ、と。
 T1-0を、いや、その奥にいるマナに注がれるダークフェンダーの機械の目が幽かに明滅する。それはまるで、主の命乞いを代わって訴える、機械仕掛の涙だった。
『お家に帰んな……お嬢さん』
『ほんまに野蛮!』見逃してやろうというのに、機械公爵は捨て台詞を吐く。『あんたほんまにあの牧島重工製四五式トロイリ四型汎用亜人型自律特殊人形第弍号ちゃんなん!?』
『そうです、私は牧島重工製四五式トロイリ四型汎用亜人型自律特殊人形第弍号』マナは胸に手を当て、軽く腰を折る。『またの名を内藤丁』
 T4-2の声色を借りたマナの返答が飛び去るダークフェンダーの背を撫でた。

 一瞬目を閉じて、次に開けた時には室内は青白い宵闇に満ちていた。窓枠の形に浮き上がった床の仄明かりは、マナが先程脱ぎ捨てたT4-2の濡れた服を照らしている。
 先の勝利を思い出し、気分よく起きあがろうとするが、戦いの疲労と痛みは未だマナを蝕みベッドに縛りつける。
 戦いの終息に伴い昂揚が薄れると、マナの右肩は痛みという無用の長物を思い出した。その上、右腕は感覚がなく、ただ肩からぶら下がるだけ。すべて精神と神経が肉体に見せる幻だ。
 牧島は不自由な右腕を抱えてリペアルームへ戻ったマナに、労いと礼をいくつか口にしたあと──まるで思い出したように──T4-2の不調の原因を口にした。
「きみが戦っている間に調べていたんだけどね、オーバーヒート……つまり発熱の原因は冷却水の不足だ」
「あっそ。痛み止め欲しいんだけど。滅茶苦茶痛い。ハサミで右腕切ったような痛さ」
「滅茶苦茶痛くなってから鎮痛剤を飲んでも意味ないよ、残念ながら。若いんだから寝れば治るでしょ、たぶん」機械工学博士は生身の人間の不調にはさして興味はないのだろう。「そして冷却水が不足した原因は、はい、見てて」牧島はT4-2の腹腔内にある冷却水タンクから伸びる、他とは毛色の違うチューブを指で辿る。「こういう事に使っているから」
 マナは一瞬痛みを忘れる。呼吸も。
 精緻に計算され整然と並んだ機関の隙間を、避けるように、のたうつように、絡まりながら……一本の肉色のチューブが受容器へと伸びていた。
「やだうっそ」
 人体には百パーセント無害な化学的に完全に清浄な液体の正体。果たしてそれは冷却液だったのだ。
「それで、二号の自己拡張の具合はどうなんだい。使い心地という意味で」
 自分のせいで調子悪かったんじゃないか! とマナは叫び、蘇った肩の激痛に蹲った。牧島の質問には答えなかった。
 神経痛はあっためるといい、と牧島よりは多少親身な海崎の助言に従い、マナは浴室で服の上から熱いシャワーを浴び、薬臭いシャンプーで頭も身体も服も一緒くたに洗浄した。そして水を滴らせながらのろのろとT4-2の部屋に戻った。入り口からベッドまでの間に、服を一枚ずつ点々と脱ぎ捨ててゆく。裸のままシーツにくるまり、ただ瞬きをするつもりで、意識を手放した。
 いつの間にやら日の暮れた部屋の中、マナは未だ騒がしい神経に障らないようにゆっくり起き上がる。眠る前まで右肩から先は糸の切れた操り人形のようにぶらぶらしていたが、今は痺れを感じる。感覚が戻りつつあった。
 マナは裸のまま部屋を横断し、壁際の書棚の前で立ち止まる。
 整然と、ぎっしり、みっちり、とりどりの背表紙が居並ぶ様はまるで彼の脳味噌。各種図鑑に横文字の文学っぽい書籍から、吉屋信子に高畠華宵、あとは彼自身が記したのであろう日記や、蜂と蟻の観察記録。思考を覗き見しているようで妙な昂揚があった。
 お行儀の良い本の配列を入れ替えて乱してやろうか、と一冊に手をかけたところで背後のドアから上品なノックの音がする。
「自分の部屋に入るのにノックはいらないでしょ」マナは振り返りもせずに言う。
 扉が開く音と、そうでした、という声。
「身体治ったの」マナは振り返り戸口のT4-2を見る。
 男は片手を軽く上げ、翳りの中から月光の元へ出でる。その左手には、小さな籐のバスケットがぶら下がっていた。果物がいくつか、ころころと音を立てて揺れる。安心感を覚える大きな軀の中、向かって左側がやけに寂しい。
「まだか」その軀に右腕はなく、歩みは右脚を引きずり痛々しい。
 剥身の軀は月明かりを反射して蒼く煌く。隕鉄ならではの整然とした線状の輝きに所々、不揃いな反射が混じっている。歳を経た皺のような浅く細かい疵痕だ。こんなに傷だらけだっただろうか。マナが私事に巻き込み酷い目に遭わせてきたせいだろう。
「裸で歩き回るのやめなよ」
 本当は、停電のせいで軀に異常はないのかとか、色々ごめんとか、そういう事を言いたかった。
「いいではありませんか。楽園と思えば。それにあなただって」
 T4-2の視線がマナの裸体を下から上へ、ためらうように撫であげる。いつものように執拗に絡みつく卑猥な光ではない。それは、懐かしみと愛しさの、どこまでも澄んだ月明かりだった。何故か突然湧いてきた胸を押し潰すような切なさを誤魔化すように、マナは目の前の男を精一杯糾弾する。
「あんたさ、自分のせいで調子悪かったんでしょ。何が化学的に清浄な水だ。冷却水じゃない」
「正しくは、冷却水に少々の粘性を付加したものです。あとは私の情感を少々」
「頭おかしい」
 そうですね、とT4-2は嬉しそうに笑う。そして不自由な脚を静かに畳み、マナの前に跪く。
私と、私の大切な人々を守ってくださってありがとうございます、内藤マナさん」
 丁重に礼を言われてマナも悪い気はしない。というか気分がいい。
 だがそこに、しかし、と水を差す不穏な言葉が続く。
「ジェットパンチの神経負荷に耐えるために自らの腕を切り落とすなど、合理的ではありますが正気とは思えません」
「生身の腕じゃないよ」
「外傷はなくとも感じる痛みは同じでしょう」
 T4-2はそっとマナの右手を取る。じわりとした痺れは名誉の負傷の名残か、互いを結びつける磁力か。
「死ぬほど痛かったよ」マナは片方の口角だけ上げてへへへと笑う。
 T4-2は瞼を伏せたまま、抑揚のない声でぽつりと続けた。
「私は……心配をしているのですよ、マナさん」
「心配、そう、よし。そう思うなら、あんたもそういう事はもうやめてよ」はて何の事、と首を傾げるT4-2のために付け加える。「わざと攻撃を食らうとか、身を呈するとか」
「善処します。しかしあなたは私が滅茶苦茶にぶっ壊されて死ぬところがお好きなのでは」
「あたし以外があんたにそうするのは許せない。だってあんたはあたしの物だから」
 マナに所有される事を望むT4-2の事、マナの言葉に必要以上に喜ぶかと思ったが、今回はそうでもなく、俯いた笑顔はどこか暗い。
「あたしはあんたが、またああいう風に黙りこくって動かないで横たわってる状況になるくらいなら、なんでもするから」
 なんでも、というのは本当に言葉通りの意味だ。掛け値なしに、命さえ投げ出す。
 T4-2は項垂れて、ふうむ、と思案げな声を発した後しばらく沈黙し、そして「あなたには、いくらやめろと言っても無駄ですからね」と静かに言って立ち上がると、マナを抱きしめる。
 マナの素肌に当たる鋼鉄の膚はじんわりと穏やかな冷たさがあった。
「熱いの治ったんだね、冷蔵庫くん」
「そう呼ばれるのは随分久しぶりです」
「そう?」
「やはり冷たい方がお好きですか」
「どっちでも」T4-2がいつも通り元気ならそれで「いいよ」
 粗雑機械にしては珍しく、マナの投げやりな言葉の隙間に押し込まれた彼女の本意を読み取ったのか、T4-2はふふふと穏やかな笑い声を漏らす。
「お疲れでしょうから、もう休みましょうね」
 T4-2は片手で軽々とマナを持ち上げて寝台に下ろし、自分も腰掛ける。T4-2はバスケットの中から果実を取り出し、断ち割ってマナに差し出した。
「ザクロだね」マナは部屋の壁を見る。「壁紙とおんなじ」
 淡い色合いと点描で描かれたザクロは、熟して爆ぜかけている。マナの手の中の果実と同様に。
「ウィリアム・モリスです」
「あんたの友達?」
「そうです。彼のテキスタイルには色褪せない魅力があります」
 興味のないマナは、ふうんと言って俯せになって果実を齧る。目の覚めるような酸味の後に、口の中いっぱいに広がる芳醇な甘み。今日一日の騒動に疲れ切った身体が慰撫されてゆく。
 T4-2の視線は、果実を齧るマナの唇に、そしてそこからこぼれる果汁が辿る首筋と手首に、静かに落ちてゆく。
「いいよ、しようか」マナは微笑み、手を伸ばす。
「いいえ、今宵は」T4-2は少し俯いてからマナの隣に横たわった。「これだけで十分です」
 いつもならここから情を交わす流れになるが、珍しくT4-2にその気はないようだ。好色の変質者ではあるが、流石に自分を守るために戦って負傷した人間を休ませてやろうと慮れるくらいには紳士なのだろう。
 二人は互いの片腕を上にして向き合い、痺れと傷を抱きながら脚を絡める。マナの頬がT4-2の胸に触れるたび、鋼の中からわずかに伝わる拍動のようなものがあった。
「秘密守ってくれたんだね。牧島博士にも言わなかった」T4-2とマナがそういう関係である事、一緒にT1-0に乗っている事、そしてマナが超能力者である事。「いい人」
「あなたとのお約束は守ります」
 マナはT4-2の目を真っ直ぐ見上げて言う。
「ありがと」
「もう一回言っていただけますか」
「ありがと」
「驚きました。痛みのせいですか、今日は随分と素直ですね」
「ありがと」言いながらマナは痺れる拳でT4-2の胸を殴る。「いて」
「骨が折れますよ」
 骨も肉も断った痛みの前では拳の痛みなど些細なものだ。
 そうしてコツコツとボディを殴りつけ続けるマナの手を取り、T4-2は自身の微笑にあてがう。
「牧島博士に、破壊された部分以外は直す必要はないと仰ったそうですね」
「ガワしか治せないって博士も言ってたし」
「お喋り変態ストーカー野郎でもいいという事ですか」
「お喋り変態淫乱ストーカーマゾ野郎ね。よくはないけど、最初に会った時からそうだったから、今更変えられても。それはあたしが知ってるあんたじゃないから」
 寧ろそうした変態性が矯正されて真っ当になってしまったら、マナでは到底釣り合わない清廉潔白な人になってしまう。
「それ以上にいいところあるし」
「たとえば、具体的に」
 乗り出す軀。輝きを増す眸。
 少し褒めると調子に乗るところはいただけない。
「顔と体と声」あと全部。と、心の中で付け加える。
 なるほど、とT4-2は深く納得して頷く。
「力作ですからね。想像を絶する程悠遠な宇宙の英知と、それを再現した人々の」
 マナはふと、浴室でT4-2が言っていた事を思い出す。
「今のあんたは、メンテナンス始める前のあんたと同じなの?」
「さあ、どうでしょう」
 それ以上の疑問を抱かせまいとでもいうかのように金属の冷たい腕がマナを引き寄せ、マナは彼の身の内に囚われる。
 頭の上から静かに降ってくる幻妙な声。半分あの世から響いてくるような、低く茫洋とした。
「たとえ私がこれまでの私から変容メタモルフォシスした何かであったとしても、それでも、私があなたを想っていて、大切にしたいという気持ちだけは変わりません。長い時を経てやっとわかりました。何が私を私たらしめるのかというとそれは……」
 完成だ、とマナはT4-2の胸の中で呟いた。
 自分は完成したのだ。不完全を再現した完全無欠のロボットの、たった一つの部品として。自分がなければ彼は単なるガラクタで、彼がなければ自分は潰しの効かない部品。
 そう思うと図らずしも甘美な安寧があった。
 こうして内藤マナは完成した。

THE END of Side by Side