鋼と夢の超技展 - 11/11

「ぉ゛――っ!?♡」
 初めて零れた声に、自分でも驚いたようにT4-2の喉が震える。息を呑み、音にならない嗚咽の中に、ひときわ湿った音が混ざる。悦び、愛欲、恋情、焦燥……そして依存。
「……ぁ……っ♡ マナさぁ、ん……♡」身も心も音もマナに甘え盛ってくる。
 機械がそんな声を出すはずがない、とマナは一瞬思う。だがそれは確かに、彼の内奥から漏れ出た欲望の証だった。ひどく濡れて、ひどく乱れ堕ちた。
「なんて声出すわけ」マナの喉がごくりと鳴る。それなのに口の中は乾ききっている。
「あまりの……雄々しさと……愛おしさが胸中で破裂して……」
 捩れる鋼鉄の威容。膨らんだ胸からの排熱がマナの頬を撫でる。
 かちり……と、深い接合の音が、奥で鳴る。まるで雄の到来を待っていたかのように、古来よりそうした性質であったかのように、マナに吸い付いてくる。
 本能を掻き立てる、その機構。マナのなけなしの理性が剥かれ、獣性と嗜虐癖が不躾に掻き出される。
 とどめは「ここは、あなたのための……あなたのためだけの場所です……っ、深く密に受け入れて、受胎……するための。ですから……どうか」この掠れた哀願。
 すでに擦り切れかけていたマナの忍耐が霧散する。マナは膨れた胸に両手をつき行為を再開する。
 濡れたような音と共に関を抜ける怒張。関を押し上げるように入っては、引きずるように抜ける。動くように設計されていない場所が磁力によって無理矢理律動する。
 鎌首をもたげた怒張が受容器の奥でしなる。磁力をまとった脈動が奥津城の襞をひと筋ずつ削り、擦り、味わい尽くしていく。
「ォ゛……ッ、げ、ぇ……い゛ギッ♡」
 壊れたような喘ぎ。――いや、もとより壊れた不良品だ。ならばどうしようが構うまい。マナの動きが疾く、暴力的になってゆく。
 金属であるにも関わらず、内臓的に弾力に富み、柔らかな感触を怒張に伝えてくる。
「出たり入ったり、で、受容ぉ器っ、狂うっ、陰茎を出し入れ、するための場所では……ん゛ォ゛ッッありましゅッ♡ 無理矢理出し入れ、ぎもぢいッ♡♡ たっぷり実用ぉお゛ッ、してくらは……ぃ゛ッ」
「そうする……よっ、しっかり使い潰してやるからな……ッ」
 額に汗を浮かばせて、マナは口角を悦楽に振るわせる。組み敷いた男は、あまりにも使い心地のよい精密機械だった。
「ぃぎっ!?♡ ぉ゛っ!♡ ん゛ぉおっ!?♡♡ 乱暴に、されるのぉっ、ぎもぢいっ♡ ああああ!♡」
 突き上げて子宮の底を殴るたびに、真円の眼は爆発的に煌めいて、背が痙攣して反り返る。度を越した快楽に彷徨う隻腕を掴み、寝台に縫いとめる。手と手が触れ合ったことに救いと法悦を見出したか、T4-2は深く震える。
「ェ゛……ッ♡ ォ゛、オ゛……♡♡」
 ぶるりと濡れそぼった内臓が痙攣する。上向きの腰は暴れまわるマナを追い、最短距離で快楽を求める位置へと調整される。激烈な交尾をねだる反応以外の何物でもない。
 肉杭を打ち込むたびに鋼鉄の膣壁がへこみ、潤んだ金属襞が反発音を立てて跳ね返る。反発した鉄襞はそのまま先端を包み込み、啜るような金属蠕動でマナの愉悦を極める。
「ん゛ッ、きたっ、きてますッ♡ ぁア゛――ッ!♡ マナさんのっ、極上ペニスっ♡ ご立派ッ♡ 機銃級ッ♡ 流星突きッッ♡」
 狂瀾の嬌声が、排熱の熱気溢るる室内に反響し、マナ自身の内奥までも灼きつくす。
「狂ってる……いや発情か」
「……っそうですっ、発情ぉ♡ してますっ、アンドロイドの……ロボットの分際でっ、人間様のお精子欲しがっていますッ♡」
 言葉通り、機械仕掛の脚がマナの腰を抱く。マナの精を――いや、マナ自身を欲しがり取り込もうとしている。
 肉体ごと受容器に導くかのように、蟲めいた脚部がマナの身体を引き寄せ、密着させる。蜜壺は幾億の虫螻が蠢くように蠕動し、絶頂の波を打ち寄せる。
 その締め付けは、マナの思考も、何もかもを流し去る。
 ただ、愛おしさだけが凝り固まった肉体だけが残る。
「やばい、イキっぱなしの膣、気持ち良すぎる……」マナの唇から熱い呼気が漏れる。
「――〜ッッ!?♡ 褒められ……ッ♡ もっとぉ、褒めて、ください♡」マナの耳に吹き込まれる低く淫靡な誘惑。「……私の淫らな使い心地」ぞく、とマナの腰が限界を迎える。
「っ、調子に乗るなっ」
 尻を叩きつけるように重なる腰。どぷり、と先兵が放たれる。次いで、一気に流し込まれる白濁。それでも怒張の芯は抜けない。雄の満足には程遠かった。
「ォ゛お゛ぉお゛おぉ゛っっ! 容赦ない受容器直出しっっ、ぎもぢいッ、助けてっっ、感覚回路遮断効かないぃいいッ、ぎもぢよすぎるッ」
 マナの下で暴れ回る巨躯。うねり、波打ち、苦しんでいるようにもみえる様は、まるで浜辺に打ち上げられて、潰れながらもがく深海魚。
「イくっ♡ イきましゅッッ♡♡ 子宮直送受精イき、極めますからああぁ―― ♡♡♡♡」
 白濁に子宮を浚われる快感を絶叫する機械。激しく明滅していた眼光は、今や拡散した光を湛えている。人間で言うところの瞳孔散大。そして欲望の色で塗りつぶされている。
「あ゛ーッ、あなたのことしかっ、考えられなくなるう……」焦点の合っていない、ぼんやりとした目がマナを照らす。
「それで何か困ることあるのかッ!?」
「ないですッッ♡」
「おう、ねぇな!」
 マナは一際深く腰を突き入れ、再び欲を流し込む。先端に濡れた鋼の子宮底が触れる。冷たくも熱い、肉粘膜じみたそれ。完全なる未踏の到達点。
 怒張は最奥へと届き、子宮口が待っていたかのように吸い付いてくる。磁場が結合点を締め、逃げ道は消えた。陰茎は脈動し、精汁の奔流が冷却液の代わりに金属の子宮を満たす。
「ぉ、や゛……っ、満ちて、あ゛ぁっ♡ 逃げ場、なく……う♡」
 吐息とも断末魔ともつかぬ声をあげながら、T4-2は子宮の内側で深く震え、受容器が射精を受け止める瞬間、機械とも人ともつかぬ快楽の波に呑まれてゆく。
 一滴残らず精汁が堆積し、粘液溜まりが形成され、内部の構造が軋みを上げて変形し始める。
「女お゛ぅ……機構、が……孕む……っ」譫言を垂れ流しながら、T4-2は後快楽にうっそりと揺蕩う。
「孕むわけないだろ」そう吐き捨てつつも、マナはその粘度も糖度も高い言葉にあてられる。「ないよね?」その疑問に答える声はない。ただ深い息を模した音と身動ぎが返ってくるのみ。
「……回路が飛んで、ぼうっとして……よく、わかりません……」やっと返ってきた答えもひどく頼りない。ただ、瞳は満足に煌めいて泣いているようでもあり、満たされているのはわかる。
 マナの長くうねる黒髪が鉄面皮に流れ落ちて、次いで唇が重なる。破裂しそうな愛おしさを乗せて、マナは何度も微笑を味わう。
「わかんなくてもいいや」今こうして心地よいことだけがすべてだ。後先考えない悪癖がでているとも言える。
「磁力……飽和……美しい……」T4-2の台詞は、もはや夢とも現ともつかぬ呪文のようだ。「あなたの精液には常用性と依存性があります……」唇を塞がれながらも響く声。
「ありませんが」
「そんなわけ……」
「ない」
「ですが、私はこんなに……長らく、ずっと……」
「そんなに言うほど長くも付き合ってない」
 不満そうに狭まる眼。離れ行くマナを再びしっかりと抱える脚。
「嗚呼、マナさん、どうか」やめて、なのか、さっさとやれ、なのか、マナにはわからないし分かる必要もない。ただ気の済むまで、思うがままにするだけである。自分の快楽と支配だけが真実だ。と、マナは思う。
 快楽に暴れる軀を押さえつけ、マナは再び挑みかかった。
 窓の外、月光の溶けた波が、ゆるやかに岸辺を撫でていた。

▣▢▣▢▣▢▣▢

 耳の奥底を真夜中の波が攫う。過ぎた疲労も、度を越した熱情も、すべて押し流す。
 目の前にはひどく落ち着く鈍色の胸板。窓から差し込む嫋やかな光が、ごく細かな傷を浮かび上がらせる。まるで忘れ去られた遺跡に這う蜘蛛の巣だった。マナはその一筋一筋に指を這わせる。
「あんたみたいに丈夫でも、こういう傷はつくんだね」――超能力者と戦わせたせいで、と言外に滲ませる。
「箔がついたと言っていただきたいですね」額面通りのことしか言わない男だが、その言葉にはどこかマナを慰める節があった。「残念ながら明日には完璧に直っているでしょう」
「そりゃあ残念」
 鋼の腕がマナの背をしっとり撫でる。ひどく名残惜しそうに。まるでこの夜を越えたら別離するかのように。
「ずっとあなたとこうしたかった。誰の目を気にすることもなく二人で部屋に入り、シャワーを浴びて、朝まで同じベッドで眠る」その言葉さえ、どこか永久とこしえの別れを思わせる。
「じゃあ、二人で暮らすのはどう。あの広い物置部屋で。上等で大事なものなんか持ってないから、あたしは身一つでいける」
 半ば本気の提案だった。自分もいい歳だし、そろそろ家を出ていい頃合いだ。五月蠅い兄からも解放される。
 それは……とT4-2の言葉が詰まる。
「ご家族が心配を……」
「アキも薫ももう子供じゃないんだから、あたしがいなくても」
「いえ、皆さんがあなたを心配なさるのではと」
「そんなわけない」自分こそ子供ではない。
「あなたは本当に、ご自身が周りからどう思われているのかについて鈍感ですね」
 マナは寝ぼけ眼のまま眉を顰める。「他人からどう思われてるかは、自分が一番よく知ってる」そして、どう思われていようがどうでもいい。
「では私からこの上もなく眷恋されているということも」
 はいはい、とマナは熱っぽい瞳から視線を外す。そうでもしないと、視覚から神経を伝って脳まで焼き潰されそうだったからだ。
「私があなたのためだけの存在でいられたら、どれほど……。私がもし、警察もなにもかも放り出しても、あなたは……」好きでいてくれるだろうか、とでも続くのだろう。
「あんたはあんたの好きにすればいいよ。何だろうと、あたしの気持ちは変わらないから」
 ただ、好きだと何度も重ねて伝え、相手の名を呼ぶ。
 指先は再び、愛する男の表情を触覚にも焼き付けるように彼の貌をなぞる。
「私の貌を覚えておいてくださいね、ずっと、未来永劫、忘れないで……」
 こんな貌、忘れるわけがなかった。ひどく穏やかで、どこか哀しげな……。
 マナは、潮騒に混じる心音を聞いた気がした。それがどちらのものなのか、もう区別がつかなかった。

THE END of In the still of the night