感じ入るような男の溜息。「あなたは一生知る由もないでしょうが、あなたのその表情は大層危険で魅力的です。円熟して、しっとりと潤って、まるで荒野の井戸です。彷徨える追放者の安らぎ。……私の隕鉄」とてつもなく迂遠にまだるっこしくマナを褒め称える言葉。声に出さずとも十分に伝わっている。それを示すために、微笑に人差し指を当てる。
無声映画のようになった男の軀に手を這わせる。彫刻のように変わらぬ表情を記憶に刻むように指先でなぞる。そしてよく喋る喉を辿り、張り出した胸を両手で愛撫する。硬質な金属のはずなのに、与えられる刺激に鋭敏に反応して蠢き、ひどく肉感的だ。筋肉質な男性体を模した部品の一つ一つが、まるで息衝くように豊かに蠢きマナの触覚を悦ばせる。
「嗚呼、マナさん……」
熱のこもった声とともに、T4-2の視線がマナの陰茎に落ちる。その時が待ちきれないのか、腰から下がマナの肌にぴたりと沿ってくる。それだけでは満足には程遠いらしく、マナの欲望を掻き立てるように、その身でマナの陰茎を扱き立てる。
全身を存分に使ってうねる軀はまるで蛇だ。色欲を司る金属の悪しき大蛇。一節ごとに艶やかに脈動しながら、マナを絡め取り、絶対に離さない。
その媚態にマナの中で沸き立つ血がとうとう一点に集中する。血流に溶け込んだ欲望が猛るに任せて、マナはT4-2の蜜口に指をあてがい、溢れる液体のぬめりに誘われるように、その境界を押し広げる。そして、突き入れた。
巨躯が感電したようにびくりと震撼する。いかな激甚な攻撃を受けても大した身動ぎも動揺もしない軀が。
「……っ、く……」
喉の奥で凝る深く控えめな声。ともすればシャワーの音に溶けて消えてしまいそうなほど、小さい。
いつもなら触れただけであられもない大声を出すのに、今日は妙に静かだ。とはいえ、マナの指への締め付けを鑑みれば、感じていないわけではないだろう。
指先は簡単に彼の奥を抉っていた。待ち侘びて迎えに来ていたのだろう。なんとも淫らな神経に軀。
ぬめる内壁を、指の腹で円を描くように磨きながら、じわじわと引き抜いてゆく。機械仕掛けの内臓がひくひくと収縮を繰り返し、時折、マナの指先に小さな震えのような脈動を返してくる。はっ、はっ……と慄く音が、鋼鉄の胸を隆起させる。とても大人しい反応だが、興奮の程は窺える。金属細胞の一粒一粒が、唐突に突き入れられた無遠慮な指が離れるのを惜しんでいるかのように縋り付いてくるからだ。
マナの唇の端に悪い笑みが上る。
あえて声を抑えているのだとしたら、どうしてどうしていじらしい。そしてその余裕と努力と理性とやらを打ち砕いて滅茶苦茶にしてやりたくなる。
抜け落ちる寸前まで引き抜いた指を、勢いよく元あった位置に戻す。
「――ッッ!……っ、あ、……ぁぅ……!」
金属の喉奥で泡立ったような、しかしどこにも成らずに潰れて消えた声。完璧に絶頂に押し上げられている。
あとは抜け落ちるのみと油断しきっていた軀は、マナの指を追って堕ちるがままに受容器を下げきって、簡単に攻め落とされる場所に陣を張っていた。
その証拠にマナの指は半分も入っていない。それでもその先端はしっかりと男の受容器の入口を穿っていた。初々しく張りのある円環。鋼鉄というよりも濡れた粘膜のように生きた感触。拒絶よりも強い歓迎の圧。たまらない。
「へうっ……ああ、あー……?」
あまりに激甚な快感だったのか、何が起こったか理解できないという風な呆けた声色に、椿が散るように傾ぐ頭。高性能な光学鏡はしっかりと己の無様な部分を感光しただろう。
「随分浅いところにあるね、あんたの子宮」あえて受容器とは呼んでやらない。こんなものは炭素生命体の脆弱な性器でしかない。
鳥肌が立つようにぶるりと震えるT4-2。
「は……ッ、そんな、なんと……はしたない、私は……ッ、んっ、これでは、好き者です……」
貫かれた腰が揺らめく。その眼光も。声も。再びじわりと湧く欲液。
「その通りでしょうよ」
総崩れになったところを一気呵成に侵し抜く。素早く指を出し入れし、力任せに関を打擲する。
「んっ、ふー……ッ!? ふぅっ……!」
声こそ抑えてはいるが、その双眸の奥は忙しなく発光しては停電したりを繰り返している。
どっしりした腰も大腿もかくかく力無く震えているが、それでも必死にマナの手に押し付けられて愉悦を追う。
「ぉー……ッ、う……」
金属の肉が吐き出すには余りにも生々しい、ぬるりと滴る快感の汁。浴槽の縁に片足を乗せ、存分に晒されたT4-2の核心は薄明かりの下で原始の深海生物のようにひっそり妖しく収縮する。
「んっ……んん……っ、マナ、さん……おぉぉー……っ」
硬く閉ざされた最奥を執拗に磨り潰すように抉るたび、呻きが漏れる。そのたび、絶頂の兆候が指を締め付けた。
しかし何度果てようと、その様子は密やかで慎ましい。もっと故障寸前のような身も世もない絶叫を上げさせないと気が済まない。
マナは指の動きを止めて、しっとり濡れた金属の膚に唇を寄せて水滴に吸い付く。
張り付けた唇を蛇行させ、大小様々な部品の形を確かめるように蛇行させる。鎮静的な愛撫にT4-2の軀が弛緩し始める。
「んー、マナさん……マナさん……好きです、ずっと前から……有史以前の……」
くたりとマナに寄りかかってくる重み。よく懐いた動物のように身を任せられて悪い気はしないが、甘やかすためにそうしているわけではない。もっと鳴かせるためだ。
マナは油断しきって弛んでぐずぐずな膣内に磁力を纏わせた指を一気に突き入れる。磁場の唸りと共に、鋼の花弁がわずかに開いた。その隙間に、マナの指がぬるりと潜る。
「ぉッ、ん、おぉお〜……!?」
だらしなく堕ちきっていた受容器を押し上げられ、隅々まで強く揺れる蜜道。マナの腕の中、丸まっていた巨躯が伸展して仰反る。ひくひくと痙攣する下腹部を頂点として優美なカーヴを描く。
「おぉ……いっ、く、嗚呼……」
埒を明けたようではあるが、やはり思う様狂い果てることができないせいで発散しきれない熱が溜まるのか、物足りなさげに身悶える軀。纏いつく気怠い快感を、振り払うかのように。眼差しは目の前の人物ではなく、己の壊れゆく快楽回路の残光を、ただ追っていた。マナを愛しているという事実すら、もはや快楽の光芒に溶けてしまったのだろうか。
「声我慢してる?」
はい、と一つ振られる首。
「いつも静かにするよう厳命されていたことを思い出したものですから」
くたりと傾いだ貌の中、目の灯が恥じるようにぼんやりと暗くなる。
こんな時に妙に律儀になるのはやめて欲しかった。苛めて大声で鳴かせてやろうとしていた自分の性格が悪いような気がしてしまう。実際悪いが。
「今更、今日に限って。家じゃあないんだから、いいってば。上下左右の部屋の奴らだって、あんたの喚き声を“それ”の声とは思わないって。ラジオが壊れた音か、下水の音くらいにしか感じないよ」まったくの嘘を並べ立てた、安っぽい気休めだった。「それに、あたしはあんたが汚い大声あげるの好きだし、文句言われたらあたしが謝るよ」
「あなたの真心は嬉しく頂戴しますが、そのような事態にはなり得ませんのでご安心ください」
ふと持ち上がったT4-2の顔の中、先ほどまでの様子が嘘だったかのように双眸は爛々と赫いている。
「なんと本日は全室貸切です」
「今なんて」
「なんと本日は全室貸切です」
そう宣う眼差しの、得意げなことといったら。腹立たしくも見惚れて……いや、やはり腹立たしいだけだ。
「あんた金の使い方おかしいよ」しかし、まあ「そこまで準備万端なら据え膳食わぬは何とやらよ」
言いながら、マナは頭からバスタオルをかぶり、T4-2にはバスローブを投げつける。バスローブに隠される寸前に、濡れた太腿の隙に視線を落とす。確かにそこに、豪勢な晩餐は整えられていた。
変わらぬ微笑が、ゆっくりと夜の深度を増す。
「そうと決まれば、さあ、参りましょう。もう吠えても、軋んでも――断末魔さえ聞くものはないのです。あなたの思うがまま、無軌道にお使いになれます……私を」
マナの耳元で囁く灰色の声の、なんと淫奔なこと。それは夜の海よりも深く深く、マナの魂の奥まで染み入っていった。
▣▢▣▢▣▢▣▢
超重量物を乗せたベッドが軋む。悲鳴のように。
シーツにしどけなく沈んだ男は、ひどく淫らに身をくねらせる。高級で地厚なバスローブの手触りを愉しむかのように、あるいは自身の軀を誇示するかのように、肉感的な手がその身を這い回る。白いバスローブに縁取られた鈍色の胸元は、排熱によってわずかに隆起して艶めいている。拭き残しの水滴がとろりと金属の膚を撫でるたび、そこはかとない官能が立ち上る。
ごくり、とマナは喉を鳴らす。バスルームでいいだけ見せつけられた軀だが、バスローブのまま程よく湿っていると、どこか仄暗い淫らさを感じてしまう。
挑発的に細められた眼光がマナを煽る。「見ているだけで……いいのですか」バスローブの帯がゆるりと解かれ、まるで自己解体の儀式でも始まるかのようにはだけてゆく。男は焦らすようにゆっくりと脚を開く。そのたびに金属の合わせ目が喘ぎにあわせてひくひくと蠢いた。「私はそれだけでは到底満足できそうにありません」垂涎するように、とろりと滴る愛液。金属の肉が、濡れている――自発的に。
「こんなに出して、また冷却液足りなくなるんじゃない」
心配というよりも非難、それ以上に、魅了されていると知られたくなくて、マナは吐き捨てるように言った。
「これじゃあ壊れた車だよ」それも、とびっきり高級な。
「いえ、いえ……一晩では到底使いきれないほど、たっぷり満たしてまいりましたので、ご心配には及びません。あなたの気が済むまでお好きにお使いいただけます」
ほら、このとおり、と金属製の股関節がくたりと緩む。中心で狂い咲く徒花が、機械仕掛けの妙で触れることなく奥の奥まで咲き開いた。
白銀の隧道は、透明な汁でしとどに濡れている。金属光沢はより淫らな艶に上塗りされ、粘つく液体が鍾乳石から滴る水のように垂れ落ちる。受容器へ続く隘路が糸を引きながらぽかりと開き、奥から溢れた愛液がすべてを押し流す。
「ふ、ぅ……ふーッ、私の中……ぁ、見えますか……」見えるというどころの話ではない。男はむしろ、己の壊れかけた快楽回路の残光を追っていた。「んっ、嗚呼、あなたの視線だけで、達して……しまいそう、です」機械の内臓が、視覚を備えているかのようにひくひく蠕く。「ですから……そんなにじっと見つめないで……」
「自分から見せつけてきたんだろうが!」
羞恥と誘惑が交錯する、その様がたまらなく愛おしく、癪でもある。
マナは激情のままT4-2に覆いかぶさり、怒張を突き立てた。もう我慢ならなかった。
「お゛ォ゛ッ――!?」
途端に蜜道が引き締まり、マナに縋り付く。ついさっきまでだらしなく緩みきっていたのが嘘のようだ。挿入の刺激だけで、急激に絶頂に打ち上げられた軀はびくびくと震える。
「かひゅ……ぁ、ご、ぉ……ッ」
声ともいえない音がマナの耳元で破裂する。限界まで仰け反った男の喉奥から、暴風にも似た音が漏れた。好い音だ。もっと滅茶苦茶にしてやりたくなる。腰をいいだけ打ち付け、相手のことなどお構いなしに中を穢してやりたいのだが。
「なにこれきつすぎる」
常ならば甘やかして歓待してくるような締め付けだが、今は交わる相手のことを一切顧みない。愛撫の時は蜜壺が溶けて包んできたのに、今はただ、締め上げて殺す勢い。とはいえマナに奔る刺激は痛みではなく、理性を裂くような途轍もない快感だ。動けばすぐに劣情が抜け切ってしまいそうなほどの。そんな憂き目を、この男の中で晒すのは恥でしかない。
「あぁ、あは、はぁ……」笑い声とも、空気の抜ける音ともつかない音。マナの動きが止まったことで、男は僅かに正気を取り戻したのだろう。「随分と久しぶりなので……あまりの歓喜に……」
「つい一昨日やったばっかりだろうが!」
マナの感情に再び火がつく。それどころか爆発して、早撃ちがどうのなどと拘る気持ちは吹き飛ぶ。とにかく、この好き者の機械に仕置きをして、前後不覚の不良品にしてやらないと気が済まない。
